歯の一生

人生80年の時代になった今でも、歯の平均寿命は歯の場所によって違いますが40歳〜60歳と短いものです。

80歳で20本以上の歯を残そうという8020運動が一般に浸透してきましたし、歯の寿命を一年でも長くする為にまず歯の一生を理解することが大事です。

そこでライフステージに即した、歯と体の状態を説明する歯生活を皆様にお送りします。

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0.妊娠期

女性にとって妊娠、出産とは人生での大きく、大切な出来事のひとつです。妊娠によりそれまで歯、歯肉とも健康であった人が、急に痛みに襲われたり、歯肉が腫れたりすることがしばしばあります。

どうしてそうなるか現在分かっているのは以下のような事です。

  1. 妊娠によりホルモンのバランスが変化し唾液の性質も変わるため、虫歯、歯周病に対する抵抗力が落ちる場合がある。
  2. 胎児の成長に多くの栄養が使われるため、口の中の健康に必要なカルシウム、カリウムなどの栄養が少なくなってしまう。
  3. 妊娠により食の嗜好の変化が起こり甘いものを多く取ったりすると、口の中が虫歯菌、歯周病菌の繁殖しやすい環境になってしまう。
  4. つわり等により歯磨きが十分にできなくなってしまう。

最近では虫歯菌は親から子供へ食事の口移しなどにより感染することが分かってきました。ですからお母さんが妊娠中に口の中に悪玉菌をいっぱいにしていると、生まれてくる子供に悪玉菌を感染させる割合が高くなってしまいます。したがって子供の虫歯予防の第一歩はお母さんの妊娠中から始まっているのです。

Q&A

Q.妊娠している時に虫歯治療は出来るのでしょうか?

A.妊娠中の歯科治療は、X線写真、麻酔、投薬などの面で注意すべきことがあります。安定期であれば治療自体は普通の人の診療と変わらず出来ますが、上記の注意すべき点などがあるので必ず歯科医に伝えるようにして下さい。

Q.虫歯、歯周病、親知らずの治療などは妊娠前にやっておいたほうがいいのでしょうか?

A.その通りです。前に書いてあるように妊娠により虫歯、歯周病が悪化したり、親知らずが痛くなったりすることがあります。健やかな妊娠期間を過ごすことが大切ですので、分かっている疾患があれば早めに治しましょう。

1.乳児期

赤ちゃんは通常生後すぐでは歯は一本も生えていなく、平均的に生後半年頃に、多くは下の真ん中の歯(乳中切歯)から生えます。口の中の主なトラブルは歯があるために生じるものが多いので、歯が生える前の無歯顎期は特に気をつけることはありません。

まれに生まれた時から生えている歯(多くは下の乳中切歯)がある子がいますが、その場合は幼児期で述べる歯磨きの仕方と同じように手入れをしてください。

またその歯のために唇や舌が傷ついたりするようでしたら、歯医者さんに相談しましょう。

乳歯列期

上で述べたように平均的には生後半年頃から歯が生え始めて、2才から3才頃には乳歯20本が生え揃います。しかし歯の生える時期は非常に個人差があるので、早い、遅いと一喜一憂することなく、もし不安であれば歯医者さんに相談してください。

口の中の健康を保つ為には、だらだらと母乳、哺乳瓶を与えるのではなく、適切な時期にしっかりと離乳していくことが大事です。子供の寝付け、ぐずり防止などのために必要以上に母乳や哺乳瓶を与えていると、上の前歯が全部やられてしまう哺乳瓶う蝕になりやすいので注意してください。

哺乳瓶う蝕 治療後

Q&A

Q.赤ちゃんによって唾液がネバネバしていたり、サラサラしていたり違いますが、虫歯と関係がありますか?

A.赤ちゃんは唾液がとても多いもので、サラサラな唾液の子やねっとりと糸をひくような唾液の子もいます。食べ物の糖分が多いとネバネバな唾液になりやすいと考えられ、それだけ虫歯になるリスクも高くなります。唾液は虫歯にならないように口の中のバランスを保つ大切なものですので、その性状は個人差もありますが食生活によるネバネバならば、それを改善するように糖分を減らすことも肝心です。

2.幼児期

幼児期はそのほとんどの時期が乳歯20本での乳歯列期となります。

この時期は正しい歯ブラシや規則正しい食生活の習慣付けをする為の大切な時期です。大きな虫歯を作って歯を抜くことになったりすると、顎の成長や今後の歯並びにまで悪影響を及ぼすことにもなりかねません。この時期の過ごし方がその子の歯生活に大きな意味を持っているともいえます。

乳歯列期の特徴

乳歯は生え揃うと20本になりますが、多くは歯と歯の間にすき間のある空隙歯列弓となっています。このすき間はこれから生えてくる大きな永久歯が生えやすいためにあります。個人差はありますがすき間のある歯並びはあまり心配することはありませんが、逆に歯がぎゅうぎゅうに生えていたり、重なっていたりすると虫歯になりやすかったり、成長にともなって歯並びが悪くなったりすることがあるので、注意して歯磨きをしたり、歯医者さんに相談するようにしましょう。

それとこの時期は指しゃぶりや、爪噛み、舌突き出し等の悪習癖が起きやすい時期です。

これらの習癖は歯並びに悪影響を及ぼすので早めに止めさせるべきではありますが、その子の心の成長にも影響しますので歯医者さんと相談しながら対処することが望まれます。

指しゃぶりによる開咬(永久歯にも影響)

乳歯列期の歯磨き

乳歯列は大人の口の中と比べて歯の大きさ、口の大きさともかなり小さいので、それにあった硬さ、大きさの歯ブラシを使うことが大切です。

硬すぎると子供のやわらかい歯茎を痛める事にもなりかねません。

あと仕上げは必ず親がやるようにして下さい。しかし歯がまだ前歯だけで8本くらいしか生えていない時までは、歯ブラシでは磨きにくいこともあるのでガーゼで拭いてあげるのも効果的です。

磨き方は色々ありますが、子供の成長に合わせて口の中が見やすいような姿勢で細かく歯ブラシを動かして磨いてください。やわらかい乳歯にはフッ素の効果が大きいので、出来たら仕上げとしてフッ素入りの歯磨剤を使うと歯はより丈夫になります。

Q&A

Q1.お菓子の与え方で気をつけることはありますか?

A1.お菓子は虫歯菌の栄養になることは確かですがそれが虫歯の原因の全てではありません。普段口の中はアルカリ性ですが、食事をするとすぐに酸性になって虫歯になりやすい環境になりますが、食事が終わると唾液の働きで元の状態に戻ります。しかしだらだらとお菓子を与えていると、口の中が元に戻れなくて酸性の状態が続き虫歯になる引き金になります。ですからお菓子自体が悪いのではなくてその与え方に注意しましょう。けじめをつけて与えて、出来れば食べた後に歯磨きをするように習慣付ければ大切な子供を虫歯の魔の手から守ることが出来ます。

Q2.乳歯の治療はどのようにするのですか?

A2.基本的には大人の歯の治療と変わりません。しかし乳歯は将来生え変わりで抜けるので、小さい虫歯や治療に非協力的な子の虫歯については、サホライドと言う薬剤を塗って暫間的な処置をすることもあります。サホライドは歯を黒くしますし、虫歯を完治するわけではないので、歯医者さんと相談しながらその子についての最善な治療、予防をするようにしましょう。

サホライド塗布

3.学童期

小学校の6年間は6歳臼歯と言う永久歯が乳歯の奥の歯肉から生えてきたり、乳歯が永久歯に生え変わったりして、そのほとんどの時期を乳歯と永久歯の混在した混合歯列期で過ごします。そして平均的には小学校卒業の頃までに生え変わりが終わり、12歳臼歯と言う7番目の永久歯が生え始めます。

乳歯列期でも述べましたが、歯が生えてきたり、生え変わったりする時期は非常に個人差が大きいものです。まわりの友達と比べて一喜一憂することなく、心配であれば歯医者さんに相談しましょう。また時々乳歯が抜ける前に永久歯が生えてくることがありますが、歯医者さんで抜くのが必要なこともあります。

内側から永久歯が萌出 乳歯抜歯後

混合歯列期の特徴

永久歯は生えてきたばかりの時は歯の表面がやわらかく、とても虫歯になりやすい状態です。

また歯が生え変わるとその新しい歯がちゃんと生え揃うまでは歯の高さはデコボコとなり、歯磨きがしにくくなります。

したがって混合歯列期は生えてくる永久歯を虫歯から守る為に、よりいっそう歯磨きをしっかりやらなければなりません。

Q&A

Q1.上の前歯が生え変わって真ん中が開いているのですが大丈夫ですか?

A1.上の真ん中の2本の歯(上顎中切歯)は外側に向かって生える場合が多く、ほとんどは横の歯が生え変わっていくにしたがって真っ直ぐになり、隙間は埋まってきます。これは醜いアヒルの子の時期と言われています。まれに真ん中に埋まっている余分な歯が存在することがあるので心配な場合は歯医者さんに相談して下さい。

7歳頃 10歳頃 14歳頃

Q2.転んで前歯をぶつけて抜けてしまいました。歯医者さんまでどうしたらいいでしょう。

A2.処置まで1時間以内なら助かる場合が多いです。もし牛乳が手に入るようなら、抜けた歯を牛乳に入れてください。そうでない場合は、洗って子供の口に含ませて一刻も早く歯医者さんに行くようにしてください。口の中の傷も出来るだけ触らないようにしたほうがいいでしょう。

4.思春期

中学、高校の6年間は永久歯列が完成、安定する時期です。

この時期は身長、体重が増加し身体の成長が著しい時であるように、顎顔面領域でも目から下の中顔面、下顔面の成長が大きくその人の顔貌、噛み合わせが出来上がります。

永久歯と言っても生えてから間もない場合は虫歯になりやすいので注意が必要な時期であり、ホルモンの変化により歯肉も炎症を起こしやすい場合があります(思春期性歯肉炎)。

また勉強、遊びなどで生活が不規則になるとその悪影響は口の中に即座に現れますので、規則正しい生活を心がけることが大切です。

思春期の特徴

上でも述べたように思春期は永久歯列が完成したと言っても、心と体の非常に不安定な時期です。

10代中盤から後半にかけて顔貌が大きく変化、完成するので学童期から矯正治療をした場合もこの時期までの確実なフォローが必要となります。

また骨格的な反対咬合(受け口)を外科治療で治す場合も、この時期を過ぎて成長を終えてからとなります。

生活の不安定から虫歯、歯周病を患う場合も少なくないので、歯医者さんにかかる場合も生活状態も含めて相談すると良いでしょう。

思春期性歯肉炎

Q&A

Q.キシリトール入りのガムなどの宣伝をよく見ますが、キシリトールについて教えてください。

A.甘味は生活の中で栄養源、楽しみなどで重要ですが、甘味=砂糖と言う考え方は欧米ではもう古く、成人病や虫歯を引き起こすおそれのない甘味料としてキシリトールが生活の中に浸透しています。キシリトールは樺の木のセルロースから抽出される糖アルコールの一種で、ミュータンス菌の発育を抑え歯垢を減少させます。またその他にも唾液の分泌を促進して、歯の表面に再びミネラルを沈着させる働きがあります。天然甘味料で高価ですが今後多くのキシリトール入りのお菓子や薬品が開発・販売されるといいですね。

5.青年期

精神、肉体とも完成を迎え、仕事についたり結婚したりと社会での方向性が決まることが多い時期です。

欧米では歯・歯肉の健康、歯並びのよさはその人の社会的なステータスを高くするひとつの要素です。それはすなわちその人の高い人生観、価値観を表す場合が多いからです。日本においても最近そのような意識が高まってきたことはとてもいいことです。

それにはこの時期から始まりやすい歯周病に気をつけることが大切になってきます。

歯周病について

歯周病は細菌により歯肉、歯を支える歯槽骨が炎症を起こしてダメージを受ける病気です。免疫系に異常がある特殊な場合を除いて、口の中を清潔にしていれば通常はかからない病気です。

しかし歯ブラシを怠っていたり、不摂生に食事をしていたりして悪い条件が整うと、ネバネバとした細菌の塊の歯垢(最近はバイオフィルムとも言う)が歯の根元に付着して、歯肉から下のほうへと炎症を起こしていきます。

また進行程度により以下の2通りに分けられます。

  • 歯肉炎 炎症が歯肉に限局していて、治癒すると元通りになります。
  • 歯周炎 炎症が歯肉の下の歯を支える組織にまで及んで破壊されたものです。治癒しても歯肉は元の形には戻らない場合がほとんどです。

軽度の歯肉炎  歯周炎

青年期では歯周病のほかに顎の痛みを訴える人が増える時期でもあります。耳の前方に頭蓋骨と下顎の骨を付けている顎関節があります。

噛み合わせ、ストレス、悪い姿勢など色々な原因によりその顎関節が痛くなったり、口を開け閉めすると音がしたり、口が開きにくくなったりといった症状が出る場合があります。

これらを総称して顎関節症と言いますが、ちょっとした症状が急に悪化することもあるので気になったら歯医者さんに相談するといいでしょう。

Q&A

Q1.タバコを吸うと歯周病になりやすいって本当ですか?

A1.歯周病は口の中の細菌が原因ですが、口の中を清潔に保っても歯周病になりやすい色々な要素があります。喫煙で毛細血管の抵抗性が弱くなり歯周病にかかりやすくなります。その他不規則な生活や、糖尿病、高血圧なども歯周病に対してはマイナスです。これらの事から歯周病は最近では生活習慣病として位置付けられています

喫煙による着色、歯石 クリーニング後

Q2.顎関節症の治療はどのようなものですか?

A2.顎関節症は程度と原因により治療法が異なります。姿勢などの生活習慣の改善で治る場合もありますし、外科処置が必要な場合もあります。主な治療法としては生活指導、鎮痛剤などの投薬、マウスピースみたいなプラスチック板(スプリント)を使う、外科処置などがあります。

6.壮年期

社会的役割も増し、働き盛りとなる40、50、60歳代はそれまで長く付き合ってきた歯が喪失する率がとても高くなる時期です。

その2大原因は歯周病と虫歯です。

若い頃虫歯を治したからその歯は一生大丈夫と思う人もいるかもしれませんが、長い間に歯が擦り減って噛み合わせが変わったり、治した修復物と歯の境目からまた虫歯になったり、根の尖端の周りが病気になったり、歯周病になったりと、毎日使う歯ですから色々なことが起こります。

やはりこの時大切なのがかかりつけの歯科医院をもって、定期的にメンテナンスをするように心がけることです。

根尖病変について

以前、歯の神経を取って被せ物をしているのにその歯が痛くなることがあります。

神経が無いのにと思うかもしれませんが、多くの場合は根の尖端の回りにある歯周組織が炎症を起こしてしまい痛みが出ているのです。

根の中は直接目で見ることが出来ず、とても複雑な形態をしています。したがって今の技術では、どんなにしっかりと治療しても根の奥に細菌や神経が残ったりする事があります。それが長い期間に悪さをして炎症が起こってしまうのです。

その場合は再治療が必要となりますが、日ごろから定期検診などをしていれば症状が悪化する前に発見する事も出来るのです。

ホワイトニングについて

歯の色は個人差があり、生えた時から茶色っぽい人もいますし、コーヒー、タバコなどの嗜好品による着色で茶色になる場合もあります。また良く手入れしていて着色する原因も無いのに加齢とともに黄ばんでくる場合もあります。

最近では欧米並みに白い歯が社会的にも好まれるようになってきました。その方法として日本でもホワイトニングが盛んに行なわれるようになりました。

クリーニングによる着色の除去できれいになる場合もありますし、歯科医院や家庭で薬剤を使って白くする場合など状態によって色々な方法があります。興味があれば歯科医師に相談すると良いでしょう。

Q&A

Q.歯を抜くことになりその後で入れ歯を入れるのは抵抗があるのですが、他に方法は無いのですか?

A.歯の欠損している場所、本数、残っている歯と噛み合わせの状態、顎の骨の状態などにより治療法は限定されてしまい、取り外しの入れ歯以外に方法が無い場合もあります。しかし条件が合えば、セメントで固定して取れないようにするブリッジや、顎の骨に直接人工歯根を埋め込むインプラントが出来る場合があるので歯科医師に相談してください。

術前 インプラント埋入後 術後

7.熟年期

仕事をリタイヤして趣味に生きたり、子供も独立して夫婦2人の時間を大切にしたりと、熟年期は人生の余裕ができる時期です。

その時20本以上の歯が残っていればおそらく体の健康も十分に維持されていることでしょう。

残念ながら入れ歯のお世話になっている場合でも、残っている歯の維持も含めて口の中の健康管理をしっかりとすることが、充実した老後を過ごすためにはとても大切です。

入れ歯の手入れについて

入れ歯は歯肉に相当する部分は多くの場合レジンというプラスチック材料でできています。

これは吸湿性があり表面が汚れやすく、手入れの悪い入れ歯だとべったりと歯垢、歯石が付いてしまいそれに接する歯肉、粘膜が赤く炎症を起こすこともあります。ですから歯を磨くのと同じように毎日歯ブラシで清掃する必要があります。

いれば洗浄剤だけで十分だと思う人もいるでしょうが、それだけではすべての汚れは落ちませんのでしっかりと歯ブラシを使うことが大切です。

口の中では部分入れ歯の場合、特に入れ歯のバネのかかっている歯が汚れやすいので注意して磨いてください。

総入れ歯 部分入れ歯

Q&A

Q.入れ歯安定剤を使っていますがいいのですか?

A.合わなくなったって落ちやすい入れ歯や、入れ歯の下に硬い食べ物が入って痛くなりやすい場合の防止などのために安定剤を使うと、とても重宝するものです。しかしながらそういった入れ歯は顎との適合が悪くなったりかみ合わせが不安定になっているので、そのまま使い続けるのは問題がありますし、安定剤により入れ歯が不潔になりやすくなっています。そのような場合は歯科医師に相談する必要があります。

Q.入れ歯を入れたばかりで痛いところがあるのですが我慢すると治るのでしょうか?

A.口の中の粘膜はいろいろな動きをするので歯科医師が頑張って作った入れ歯でも、入れたばかりでは痛いところが出ることが多いものです。ですから入れ歯を新調した場合1週間くらいは軟らかい物を食べて徐々に慣らしてください。痛みがある場合は我慢するとただれて潰瘍になったりしますので、遠慮せず歯科医師に現状を説明して調整してもらって下さい。

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